嫌みな程の青い空、真っすぐに伸びる飛行機雲、はしゃぎ回る幼な子。
足元の水たまりに咲く野花、一匹の蜻蛉、水たまりに映る青い空。
しゃがみ込み差し出す人差し指、睨み合う私と蜻蛉。
大きな車のクラクションの音に、飛び立ってしまう蜻蛉、差し出されたままの人差し指。

「比呂士くん、ありがとう。」

立ち上がり声の方を向く、服を整え私は一礼をする。
疲れの溜まりきった顔で微笑み礼を言う女性に、私は返す言葉が見つからない。

「何も言わなくて、いいのよ。私は比呂士くんが居てくれて、本当に良かったと思ってるわ。」

女性は力なく微笑むと、着いて来なさいと背中で語るように歩き出した。
私は其れに抗う事なく着いて歩く、差し出した侭の人差し指に少し未練を抱きつつ。





…ああ、綺麗になりましたね。ほっとしました。
私だけに咲く聡明な一輪の花、不自然な程に白かった花、ほのかに色づき、今にもまた咲き誇りそうに。

「私が言うのも何だけど、とても綺麗になったわ。」

女性は花を愛でるように声をかけ、手を伸ばし、触れる。

「ああ、、綺麗よ、とっても綺麗…。」

優しい女性の声、一輪の花、決して咲き誇る事の無い、美しく聡明な花。
其の瞼は二度と開かない、其の唇は二度と音を奏でない、其の指は二度と触れてはくれない。
だからこそ美しいのか、聡明なのか、時間が止まった現在も尚、私の心を捉えて離さない。

女性は振り返り私の顔を見ると一礼し、静かに部屋を出た。





誰に遠慮する事もなく、の冷たい頬に触れ、もう開かない瞼に指をかける。

、綺麗ですよ。綺麗だ…。」

最後迄弱音を吐かなかった唇、最後迄諦めなかった瞳、最後迄握りしめていた掌。
また無邪気な声で私を呼ぶ筈で、指を絡めて、貴方の好きな場所へ行く筈で。

「お台場の観覧車にね、23時50分過ぎに乗るとね、ちょうど日付が変わる時にてっぺんになるんだよ!
いつか乗りたいな、観覧車のてっぺんで、日付が変わった瞬間に、比呂士とキスするの!
そういう事言ったら、また子供だってからかう?」

果たされなかった約束、もう、甘い声で私の名を呼ぶ事も無い、非情な結末。
言葉無き声で叫ぶ、感情の波は収まる事を知らずに、甘い思い出ばかりを蘇らせる。
此れだけ大きな声で叫ぶ私を見て、貴方は困っては居ないだろうか。
お台場の観覧車のてっぺんから、優しく微笑んでくれて居るだろうか。

何を考えても叫びは、涙は、止まる術を覚えなかった。





ご好意で頂いた、小さな瓶に入った、の亡骸。
あの日蜻蛉が止まって居た野花は枯れ、止まる場所を失った蜻蛉は私の様で。
ならば枯れてしまった野花はなのだと、こじつけるように考える。

枯れてしまった花を愛でる事が滑稽な事だとしても、私は其れを辞められないだろう。
ポケットの小瓶を握り締め、今日も一輪、花を買って帰る。
少しずつ渇いて往く花を、いつまでも眺める、それだけの為に。



花が散る様はあの人に似ている

(そう、死化粧の美しさに、私が捕われてしまった様に)





special thx to
企画/罪 様
and you.