大好きだった、でも、隠さなきゃって、ずっと思ってた。
大好きだけど、何か怖かったし、舞い上がっちゃって余計な事言って、
怒ったような困ったような顔をさせちゃうんじゃないかって、不安だったから、片思いっていう土俵にすら、上がらなかった。


先輩はいつもこの時間に図書室に来る、だから、私は、いつもこの時間に図書室で小説を読む。
最初は読んでるフリだったけど、いつの間にか熱中して、読書が好きになった、これも先輩のおかげ。
先輩はスポーツの本とか、テニスの雑誌とか、いつも読んでた、それがやっぱり似合った。
先輩が座る席はいつも窓側の、奥から三番目の席、だから私は、廊下側の、奥から三番目の席に座って、本を読むフリをして、先輩を盗み見て、満足してた。
図書室の端から端の距離すら、叶わない想いの象徴みたいで、嬉しかったんだ。

先輩はいつもこの場所でお昼を食べる、テニスコートが良く見える、二階のテラスの、窓側の一番奥のテーブル。
だから、私は、いつもこのテラスでお昼を食べる、無理矢理友達を付き合わせて、やっぱり、廊下側のテーブルで。
時折、切なそうな表情でテニスコートを見下ろす顔が、大好きだった、あの顔は、私しか知らないと、いいな。

先輩は部活の前に、いつもこの廊下の水道で、顔を洗って、気合いを入れる。
だから、私は、好きでもない掃除当番を自分から買って出て、同じ水道の、端っこの隅っこで、バケツに水を溜める。
教室から遠くて、バケツを運ぶの大変だけど、なぜかそれが嬉しかったりするのが、不思議。
先輩は時々、すごく険しい表情で、近寄りがたいな、って思う、でも、かっこいいな、とも思う。

掃除が終わると、テラスに行って、窓を全開に開けて、テニスコートを見下ろす。
夕日に照らされたテニスコートはキラキラと眩しくて、先輩が太陽になっちゃったみたいで、ドキドキする。
時折聴こえる低い声が、更に私をドキドキさせる、そして、こうやって見てるだけで幸せじゃん、って、やっぱり、片思いの土俵から降りる。

テニス部が終わっちゃうと、大好きなテラスも寂しい場所に変わってしまって、私は逃げ出す、尻尾を巻いて帰る。
あれだけ自分から遭遇しておいて、なんだか、帰りは一緒になっちゃいけない気がして、急いで帰るんだ。
脇目も振らずに真っ直ぐ家に帰ると、今日もいっぱい先輩に会えたなって、嬉しくて、制服のままベッドに横になる。




 先輩の彼女さんは、幸せだろうな。
  居るかわからないけれど。
 先輩はどんなキス、するのかな。
  想像するだけで心臓がどうにかしそう。




そしてまた、次の日も、図書室の、廊下側の、三番目の席に座るんだ。
今日は先輩より先に来たみたいで、嬉しいような切ないような気持ちに、なっちゃったりして。
流行りの恋愛小説を開いて、ヒロインは私、お相手は先輩、って思いながら、わくわくとページをめくる。
うー、どうしても、口元がニヤけてしまう、だって、先輩に抱きしめられてる、そんなシーンなんだもん。

「楽しそうだな、隣り、いいか?」
「あ、はい。」

ページから目も放さずに返事をして、あれ、待てよ、って思って、顔をあげて、私は椅子から転げ落ちたんだ。

「おいおい、大丈夫か?」
「せ、せ、せんぱ…い!」
「良かった、いつもお前が俺の事見てるのは、俺の思い上がりじゃなかったんだな。」
「え、え、せんぱい…?」

相変わらず床に転がってる私に伸びる、頼れそうな、がっしりとした腕。

「名前から教えてもらう恋だって、アリかと思ってな。」
「せんぱ…!?」

「さ、お前の名前、教えてくれよ。」



ティンカーベルの伝言

(名前知らないまま、好きになったって、いいよな?)
(もしかして、私小説の中に入っちゃったのかな…)

(おいおい、そんなに強く頬を抓らない、夢じゃないぞ?)






special thx to
企画/君に花むけ 様
and you.