[side heroine]

空はオレンジ色に広がり、聞き慣れた警報音は、私の心に寂しさを置いていく。
この地域独特の、小さな電車が通り過ぎ、生温い風を残して走り去る。
鳴り止む警報音、ああ、今日も、貴方とお別れしないと、なんだね。

さん、気をつけて下さいね。」
「うん、柳生くんも。それじゃ、さよなら。」
「さようなら、さん。」

貴方は優しく微笑み、小さく手を振る。
私もなるべく優しく微笑んで、手を振って、貴方に、大切な貴方に、背を向ける。

毎日繰り返される事なのに、慣れずに、私は、毎日、寂しい、寂しいと。
いつまでも貴方と一緒に居れたらいいのに。
子供みたいに、心の中でごねてしまう。

踏切を渡り、最初の角の駄菓子屋さん、子供たちがアイスを舐めて、ご自慢の足を投げ出して。
駄菓子屋の、いつものおばちゃんと目が合う、おばちゃんはにっこり微笑み、小さく腰を曲げる。
どうしてか寂しさがこみ上げる、さっき別れたばかりなのに、会いたい、傍に居たい。
踏切の方に居直る、踏切の向こう側、大好きな人のシルエット、茶色いサラサラの髪、チタンフレームの眼鏡、大きなテニスバッグ。


堪らずに走り出す、走り出す私に気付いて、大好きな貴方も走ってくる。
理由のわからない涙がつたう、私は、我が儘だ、貴方はこんなにも私を満たしてくれるのに。


大好きな胸に飛び込むと、悟られないように涙を拭いて、出来るだけ明るい声で伝える。

「だいすき。」

それでも顔を上げる事は出来なくて、只只貴方の香りに包まれる。

「私もですよ。」

優しく低い声と、ぽんぽん、と頭を撫でる大きく頼れる手。
折角拭った涙が、また訳も知らないで溢れ出てくる。
好きな人と一緒に居る事が、こんなにも、こんなにも苦しいなんて。
だって、一緒に居れば、必ず、隣りには、さよならが、あるでしょう…?


こうして、大好きなやさしい温度に、直に触れていないと、



消えてしまいそうな貴方

(だいすきだから)
(つよくなりたい)

(いつもごめんね)
(ずっとだいすき)










[side yagyu]

…いつ、貴方が、私の方へ駆け出してくれるのかと、私は、ずっと、待っていたのかもしれません。


毎日、「さよなら」を言う其の目は、見るからに寂しさが映されていて、それでも、貴方は、悟られまいと必死に立っていて、もがいていて。
私は、そんな貴方を、守りたいと、ずっと守っていきたいと。
今日迄、貴方が駆け出して来なかったのは、私への遠慮や、自分自身への抑制や、色々複雑な心情があるとは思うのですが、やはり私自身に、隙がなかったからなのでしょう。
私とて、あの踏切がどれだけ鬱陶しく、貴方との時間が終わってしまう事が、寂しく辛かったか。
きっと、貴方は、そこまで考えられるほど、余裕が無かったのでしょう。
私は…、貴方の隣りに居ながら、こうやって待つ事しか、出来ませんでした。
彼氏失格なのかと、幾度自問自答した事でしょうか。


私の腕の中で小さく肩を震わせている貴方、駆け出してしまった事を、貴方が後悔しないように、私は精一杯の愛情を注ぐ。
柔らかな髪も、細い肩も、夏服の眩しさも、今は、鬱陶しいはずの警報音すら、愛おしい。

さんは小さく息を吐くと、私の顔を見上げた。
目はピンク色に染められていて、目尻には拭いきれなかった涙跡、締め付けられる私の胸。

「ごめんね、ありがとう。柳生くん、また、明日、ね。」

恐らく、現在の彼女の、精一杯の笑顔、今にも泣き出しそうで、思わず抱き寄せた。

さん、明日も、明後日も、私の傍に、居て下さいね。」

きっと、今は、私の肩の方が震えているだろう。
男性として、みっともないのだろうか、しかし、感情が収まらない。

「柳生くん、ほんとうに、だいすきだよ。」

そう告げると、彼女は足下に落ちていた鞄を拾い上げ、本当の笑顔で手を振って、歩き出した。


線路を挟み西へ帰るさんと、東へ帰る私、ひとつの線路が私たちを引き離す。
寂しさを纏い西へ歩き出す愛しい後ろ姿は、絵に描いたようなオレンジの光の中に、



消えてしまいそうな貴方

(ずっと、いつまでも、一緒に居れたら)
(一生、さよならなんて、訪れなければ)






special thx to
企画/あの白日夢は鮮明に 様
and you.